「弟の夫」 NHKプレミアムドラマ

NHKオンデマンドで『弟の夫』を見ている。
タイトルの通り、主人公の弥一(佐藤隆太)のもとにカナダから、死んだ弟の『夫』であるマイク(把瑠都・元大関)が日本に訪ねてくる、というお話だ。

このドラマの画面は木と肌の色調が豊かな表現で描かれている。
その肌を、彼らの顔を、古い日本家屋の障子とガラス戸を透かして暖かい陽光がいつも照らしている。どの場面でも柔らかい春の陽射しは、誰にでも等しく降り注いでいる。それはとても丁寧なつくりで、見ていると彼らの表情が好きになる。
物語の魅力やリアルさや説得力は、こういった理想をもった場面設計から生まれるのだとぼくは信じている。

台所のテーブルや居間のちゃぶ台をはさんで、日常の風景の中でマイクと弥一の会話が交わされる。
マイクの口調は穏やかでゆっくりだ。相手の言葉を遮らず、声高に叫ぶような言葉はひとつもない。
弥一の迷いと自問は、とても静かだ。
それは弥一が過去に死んだ弟に語りかけ、将来の娘に語りかけているからだ。
「そこ」にむけて語るときに、相手の顔がわかって語るときに、ぼくらは自分の正しさを喧伝したり相手を傷付けるための言葉を叫んだりはしない。

このドラマの登場人物たちは、権利を主張したりしないし差別を指弾したりもしない。まず見つめるべきは自分の心の中なのだ。


田亀源五郎の原作漫画は4巻で完結していて書店でも手にはいる。ドラマではカットされているエピソード(寿司の天ぷら、わさびソフトクリームの回など)もあるのでオススメだ。 


ドラマは全3話で、2話目まで見た感触ではとてもいい。特に把瑠都さんの演技が穏やかで真摯で、親しみが持てる。「出来ますよ!」は心地よいセリフだった。なぜか彼の言葉がときおり地元の栃木弁に聞こえる時があるのだ。
3話目は3月18日に放映なので、いまから楽しみにしている。

 

 

3/22 追記 

最終話まで視聴した。3週に渡ったこのドラマの放映と、マイクが弥一家にいた3週間が同じものだったことに、夏菜のセリフで気付かされた。

ラストはドラマオリジナルの展開で、優しくて暖かいifのストーリーになっていた。

弥一が、公園で泣いている夏菜に駆け寄るシーンでは、佐藤隆太がこの役でほんとに良かったなと思えた。いい役者、いい原作、いい脚本の素晴らしいドラマでした。