マルドゥック・アノニマス3 (ハヤカワ文庫)

少女は言う。「あなたは優しい。沢山の人があなたに助けられたし、わたしもそうだった」手のひらの上の小さな金色のパートナーに向けて。

金色のネズミが答える。「それが『有用性』ってやつだ。俺が廃棄処分されそうになったら、ぜひその言葉を法廷で証言してくれ」あくまでおどけた調子で。

少女は答える。「絶対に言う。あなたがどんなに必要とされている人か、私がみんなに教えてあげる」

 

少女と別れた金色のネズミは、ひとり自責の念にかられる。助けた人間のことよりも、助けられなかった人間のことを考える。

 

有用性などなくても人は生きていていいのだ。

それでも価値はあるのだ、という価値観を守るための戦いに身を投じることだけが自らが存在していい価値を生む。作られた存在である金色のネズミは、自分の存在価値をそう考える。

生まれたものではなく、作られたものだからだ。作られたものには意味があり、価値がある、としなければ生きられないからだ。

有用性。それを課されて、証明し続ける者たちの物語。

ぼくたちは彼らによって、彼らという物語によって、守られているのだ。

だからこれは、ぼくにとって絶対に捨てることのできない、必要な物語だ。