①トーマの心臓

トーマの心臓」は、1974年発表の萩尾望都先生の漫画作品です。
舞台はドイツのシュロッターベッツ。
ギムナジウム、寄宿学校で少年達の送る集団生活が描かれる。
主人公は愛する母親を名前で呼ぶように育てられた、奔放な少年であるエーリク。母の再婚により転校してくるところから物語は始まる。
規律に反発する問題児のエーリクは固く心を閉ざした優等生のユリスモールと相部屋になる。
そのユリスモールにはある噂がつきまとっていた。

萩尾先生の数ある代表作のひとつ。
自身のエッセイでは『(トーマの心臓では)愛と死、一瞬と永遠を突き詰めて描こうとした』と語っている。宝塚の「ポーの一族」のおかげでまた読み返したので感想とあらすじの紹介を。

もう一人の主人公であるユリスモールは傷を抱えていて、それをひた隠して生きている。彼は勉学を怠らず後輩の面倒も見て、教師の評判もいい。
だが転校してきたエーリクにだけは憎しみのような激しい感情をぶつけてしまう。
なぜか。
自殺したトーマという下級生に彼がそっくりだからだ。トーマの面影を彼に見て、トーマの言葉をいやでも思いだすからだ。
その言葉はユリスモールの傷を知っていた。
ユリスモールは過去を悔いている。お前はなぜそんなことをした、と自責する。自分の心のなかには表に出せない感情の嵐が渦巻いている。
傷を受け入れてしまった/自ら傷を望んだ/傷に従わされた/そんな自分を、自分だけが知っている。誰にも知られてはいけないその苦しみを、封印して生きると決めていた。
だからもう二度と心を動かされないようにしよう、と決めていた。静かに、平穏に。

そのためにもう誰にも関心を持たず、誰も愛さない。

自分でも、それが傷になるとは思わなかったのだから。