②『ベター・コール・ソウル』

このドラマは『ブレイキング・バッド』のスピンオフで、ソウル・グッドマンと呼ばれる弁護士の話だ。ぼくは『ブレイキング・バッド』を知らなかったが何も問題なく最初から楽しめた。前知識は必要ない。

『ベター・コール・ソウル』はシーズン4まであり、現在も毎週配信が続いている。
その第1話は物語の舞台と人物の紹介を丹念に描いている。

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グッドマンことジミー・マッギル、『滑りのジミー』はイリノイ州シセロのチンピラだった。詐欺師まがいの生活から兄のチャックの助けで更生し、いまはニューメキシコアルバカーキで弁護士をしている。アルバカーキ市は禁酒法時代にアル・カポネ一党の本拠地があった歴史的な街だ。ギャングが暗躍して麻薬がはびこり、犯罪が横行している。
そんな街でジミーは粗末な個人事務所を構えているが、クライアントは一人もいない。彼は口は達者だが信がないのだ。
仕事も金も冴えもないし、自分のことしか考えていない。ずる賢くよく口が回るが、幸か不幸か悪巧みは成功しない。人をだまし嘘をついて、公選弁護で口を糊する日々にうんざりしている。
そんなクズのような彼が、2話目から変わり始める。
彼の悪巧みは失敗し、共犯者は死にかけるがジミーは違法な『弁護』と口車で、体を張ってギャングから彼らの命を救う。
そのことにジミーは誇りとやりがいを、自分の仕事のなかにある光を見出だしたようだった。
そして3話、4話と周囲の人物の紹介がつづく。ジミーの兄のチャックはエリートで大きな弁護士事務所の代表だったが、物語の冒頭では休職して自宅療養中だ。その特殊な病状と苦境が話の中で浮き彫りになる。5話では定年退職した元市警のマイクが、ジミーに深く関わってくる。積み重ねられるいくつものエピソードが丁寧な伏線になっていく。6話の警官殺しの話は、1本の映画のようなハードな物語で見応えがあった。
そして、ぼくは7話まで見てこのドラマに感動した。
病気が悪化したチャックは激痛に耐えながら、リハビリを始める。何年も仕事をしながら自分の介護をしてくれた弟のジミーに、宣言するように語りかける。

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『私は全てを失いかけた。治す方法を見つけなければダメだ。じっと座り込んでこのまま朽ち果てる気はない。そんな人生でいいはずがない。必ず仕事に復帰する。人の役に立てる人間にもどるんだ』

 力強い言葉には希望が感じられた。
ジミーは、そんな兄を尊敬すると喜んでいた。そして気遣いを感じさせないよう兄にある手助けをする。
その手助けが復活劇につながっていく。8話では大企業の不正を発見したジミーとそのサポートで老練さと威厳を見せるチャックのコンビが生まれる。
その展開はこの物語が希望にあふれていくもののように見せてくれた。

チャックは厳格な人間だ。弁護士として大成してみなに慕われている。名声も信頼もある。病によって苦境に立たされてもそれは変わらない。
元詐欺師の『できの悪い弟』に対しても厳格さは変わらない。それどころかもっと厳しい。病気の自分にすらそうだったのだから。
第9話で、この物語の本筋が初めて暴露される。ある事件の弁護をめぐってチャックの本心が明かされる。
仕事に復帰したチャックは弟に繰り返し言う。『お前は本物じゃない』と。『私と同じ弁護士などではない』と。その表情は冷たく、怒りに歪み、別人に見えた。法を軽んじる弟の態度を許せずにずっと秘密裏に何年間も彼を裏切っていた。それが正しい行為だと、心から信じながら。
ぼくはまんまと騙されていた。これは二人の兄弟の心をえぐる、苦しみと憎しみの物語だ。安易な希望などまやかしだった。そういうものが打ち砕かれた先にこの『ベター・コール・ソウル』は進んでいく。