③ポーの一族について / 瀬戸かずや 『FOCUS ON』

ポーの一族で瀬戸さんは、ポーツネル男爵役の際に『エドガーの孤独を際立たせるにはどうすればいいか』を念頭に演じていたという。

 

ぼくはエドガーを見ていて、心底から彼が孤独だと思った。仙名彩世さん演じるシーラも、瀬戸さん演じる男爵も、エドガーの義理の両親なのに自分たちのことしか考えていないように見えたからだ。

男爵夫妻は、自分たちがバンパネラだと見破られないことと、一族の仲間を増やし人間を安全に狩ることだけを考えて行動している。だからエドガーと男爵夫妻の間には家族としての愛情などはなく、旅の道連れとしての規律や協力が求められる関係しかないように見えた。それなのに、男爵とシーラの二人は心から愛し合って結婚し、バンパネラになっている。二人にだけはお互いへの深い愛情と信頼がしっかりとある。

一方でエドガーには愛する相手がいない。唯一エドガーが家族と呼べるのは妹のメリーベルだけだった。

そのメリーベルも『もういない』のだ。彼女がどこへ行ってしまったか、誰にもわからないのだ。

だからエドガーは愛のない世界でさまようことになる。それを見ているぼくらは、その孤独と悲しみに引き寄せられていく。

 

劇中で、ポーツネル男爵は手傷を負ったシーラをかばって、逃走中に人間に撃たれてしまう。シーラも混乱のなかで人間に撃たれてしまう。彼女は死の間際に男爵を逃がそうとするが、男爵はその言葉をきかず、シーラの後を追うようにして塵となって消える。

二人は互いを抱きしめあい、婚姻の際の誓いの言葉を交わしながら消えてゆく。

ともに、命果てるまで 

ともに、塵となるまで

彼らの出番はそのようにして終わる。

その結末は、原作とはまったく違うものだ。

エドガーの孤独を際立たせる』

そう見えるように演じていた瀬戸さんがいたお陰で、ぼくは『ポーの一族』に深く引き込まれていたのだと知って感動した。

お芝居に、こんなにも奥行きがあることを初めて知れてよかった。