①Happy! (2018年 Netflix)

よごれた大人が童心にかえるには、アル中になるか死にかけるしかない。
悔い改めればなんとかなるというわけではなく、そうするとイマジナリーフレンド(Imaginary friend)ーー「if」が見えるようになるということだ。

『Happy! 』はおなじみNetflixオリジナルのドラマシリーズで、シーズンが公開されると全話通して見ることができる。むかしの地上波のドラマのように続きが気になって来週まで待ちきれない、ってことはなくなったけれど代わりにぼくらの睡眠時間がどんどんなくなっていく。


このドラマは新鮮なバディ(相棒)ものだ。
ニックとハッピーのコンビが子どもの誘拐事件を追っていくストーリーになっている。
ただし主人公の一人が、想像上の友達ーー幼い子どもが作り上げた「if」であるハッピーは、喋る小さな青いユニコーンだ。すぐにおどけるお調子者だが自分を生み出した少女(誘拐の被害者)を救出するために、理想的な相手だったニックに必死で取り憑いた。「if」はニック以外の人間には声も聞こえず姿も見えない存在だ。
そのニックは元警官で、いまはアル中で殺し屋をしている。野蛮で暴力的だが、卑しい人間ではない。金で悪人を殺しても自分が生き延びることに関心がないかのように、酒を浴び続けてぼろぼろの体と心臓を痛めつけている。「if」であるハッピーに取り憑かれるまでは、コカインとギャンブルが好物で人を殴ることが得意なーー早く死にたいと願っているどこにでもいる中年男だった。

物語のなかでニックは「if」を見て、その声に耳を傾け、「if」と話をして行動するようになる。
「if」の助言に従って東に行ってはマフィアを半殺しにし、西に行っては敵に捕まって拷問される。行く先々でトラブルを起こし、ものをぶち壊し、事態が複雑になり、流血と傷が増えていく。
他人にはその「if」はまったく見えないから、その様は滑稽で痛々しくて狂っているようにみえる。
スプラッタでコメディなタッチのシーンも多いし、風刺的でシュールな笑いも随所にある。たとえば舞台であるスラム街のマフィアのボスに『ブルー』という個性的なキャラクターがいる。その『ブルー』の妹には、リアリティー番組のTVクルー達が密着していて毎週その番組が彼らの世界のテレビで放送されているのだ。
その『ブルー』の自身を取り巻く状況への絶望と達観ぶりが、フレッシュな言葉の暴力描写となって視聴者のナナメ上をいく。それが陳腐にならず、共感も出来るけれど、好きにはなれないキャラクターを作り上げていて『ブルー』は矛盾と恐怖を感じられるあたらしい悪役になっている。


『これは私が7日もかけて作った世界ではない』

第3話の『ブルー』のセリフは果てしない。そしてこの男が街の悪徳の体現だと視聴者は気付くのだ。